2023JPA安全対策会議


レポート:安全普及事業部 前堀善斗

コロナ禍により2021年/2022年はオンライン開催となり、今年は2023年2月28日~3月2日の日程で久しぶりに通常開催の安全対策会議です。

日本パラグライダー協会(JPA)では、毎年この時期(3月)に日本全国のスクールが集まり、安全普及に関してミーティングを行っています。

捜索救助への具体的な備え

開催にあたりJPA安全普及事業部により「安全」という観点から、現状の問題点の洗い出しをして「主要テーマ」が決められます。

今回の収主要テーマは「捜索救助への備え」。

昨年10月、残念ながらレッグベルト着け忘れによる落下事故が発生しました。明確な目撃者はおらず、本人のGPS機器のフライトログも残っておらず、どこかで落下してしまったであろう事故者の捜索は100名以上の体制でも難航。発見は4日後でした。

その時の実際の捜索での経験を元に「捜索のプロ」である太田 毅彦氏(山岳救助隊 NPO岳飛(GACT)、ココヘリ公式捜索隊)に協力していただき、JPA教育事業部スーパーバイザーの扇澤郁氏が講師としてプログラムを作成。今後の有事の際への具体的な備えを参加者の皆さんと共有する運びとなりました。

キャッシュ型オフラインGPSアプリ『ジオグラフィカ(Geographica)』

今の時代、誰でも持っているマルチ便利ツールといえばスマホ。
今回使用したツールはスマホアプリ「ジオグラフィカ」です。

─『表示するだけ』で地図を保存。携帯圏外の山奥でもGPSとして機能します。Androidでも、iPhoneでも。
新世代の登山用GPSアプリです。

ジオグラフィカ(Geographica)は、オフライン環境でも使える『キャッシュ型オフラインGPSアプリ』です。一度表示した地図は自動でアプリ内に保存されます。携帯圏外の山奥でも海の真ん中でもスタンドアローンで動作し、地図表示とGPSナビゲーションを実現します。

あなたのスマートフォン(iPhone、Android)にインストールするだけで登山用GPSとして機能し、アウトドアライフをサポートします。

-ジオグラフィカ公式サイトより-

このアプリは上手く活用すれば、捜索に非常に有用です。
複数班に分かれての捜索にも対応した機能があり、今回は4~5名ずつ5班に分かれてグループでの捜索活動です。

実地訓練

初日

夕方に集まっていただき、スマホに不慣れな方でも扱えるようになれるよう、アプリのインストール段階から設定、取り扱いまで丁寧にレクチャーしていただきました。

それ以外にも捜索のプロ太田氏のエマージェンシー教室も開催していただきました。山で持っているであろう様々な道具を応用しての簡易的な担架の作り方など、装備に関する知識や応用力を高める内容でした。


2日目

朝から、実際にフライトエリアに集合です。

今回エリア使用のご協力をいただいたのは、

ウィングキッス朝霧パラグライダ―スクール

http://www12.plala.or.jp/wingkiss/



さんです。

実際の捜索をイメージして山中での実地訓練を行いました。

各グループはリーダーの指示のもと、ジオグラフィカの使用感を確かめながら捜索活動を開始です。

アプリでは、グループ内のお互いの位置情報を共有しつつ、自身の行動軌跡(ログ)を確認しながら捜索することができます。指定された範囲をもれなく目視で捜索できるよう、各班地形に合わせて作戦を練りながらマップを軌跡で塗りつぶしていきます。

各班が捜索完了後は、模擬捜索物の捜索から、けが人搬送訓練を行いました。

午後は室内に戻り講義や情報共有です。

事故での捜索に実際の参加した経験のある、扇澤氏・太田氏・岡田氏・只野氏・大澤氏などからリアルな捜索の状況などをお話をしていただきました。

締めくくりは、捜索へのドローンの活用に関して、JPA会長でありドローン関係の実務経験も豊富な小野寺氏からお話いただきました。
実際の導入や運用に関してはたくさんの課題がありますが、どんどん進歩している分野ですので、ぜひ今のうちから取り組んでいきたい事業です。


3日目

最終日は、JPAの各種保険を担当してくださっている保険会社の方にお越しいただき、我々からの様々な質問にお答えしていただきました。
万が一事故が発生してしまった場合の対応方法や注意点などを再確認することができました。


まとめ

捜索活動では効率ももちろん大事ですが、確実な網羅性が最も重要だと感じました。捜索各班に割り当てられた範囲は、一度その班の活動が完了すると「捜索済み」となるわけです。もし、その中に見落としがあれば発見は大幅に遅れるでしょう。

便利なツールを習熟し活用しつつ、それに頼りすぎず本質(目的)を見失わないような心構えが必要です。
今回のケースでいえば、ログでマップを塗りつぶすことは「結果」であって本質(目的)ではない。こんな事は当たり前に皆さん理解している事ですが、実際の捜索現場では捜索する側も平常心ではいられないでしょうし、便利なツールもその習熟が必須だと感じました。

今回の経験と学びを実践で活かせるよう(そんな事態が起きない事が一番ですが)、日頃からしっかりと備えましょう。




2019 JPA安全対策会議を開催しました


今年もJPA安全対策会議を開催させていただき、全国各地から会員の皆様にお集まりいただました。
2018年に発生してしまった事故から何を学びどう生かしていくのか、安全普及事業部からの提案に皆様のご意見を反映させて2019年のJPAの安全対策に対する取り組みテーマをまとめることが目的です。

残念ながら2018年は重大事故が複数件発生してしまいました。非常に残念ではありますが、我々は2度とこのような事故が再発しないように、しっかりと学び、今後の安全対策への取り組みに生かしていかなければなりません。



2018年はベテランパイロットによる事故が目立った年でした。グライダーやハーネスはどんどん進化し、その特性や対応する技術は変化しています。人間は意識して新しい情報を入れ、トレーニングしなければ道具進化に置いていかれてしまいます。我々はどのようにして、パイロットの皆さんにこれらの情報を伝えていくことが出来るのか?



目に見えない道具の劣化が思いもよらない事故を生むことがあります。ラインやカラビナはパラグライダーにとって要となるパーツですが、劣化具合を確認することが非常に難しい部分でもあります。
劣化を実感するのは破断してから。それでは手遅れです。ではどうするか?



これまでも安全対策に対して真摯に取り組んできましたが、まだまだ考えるべきことはたくさんあります。
今回も多くの会員の方々にご参加いただき、有意義な時間を過ごすことが出来たと感じています。
そして、今年2019年に取り組んでいく具体的な内容も打ち出すことが出来ました。



それらに各スクールで試行錯誤しながら取り組んでいただき、フライヤーの皆さんがより安全にパラグライダーを楽しんでいただくことが出来る環境になりますようJPA安全普及事業部としてサポートさせていただきたいと思います。
ご参加いただいた皆様ありがとうございました。

2019年もHappy Landing!!


Ghana Paragliding Festival 2018

ガーナでタンデムフライト1

今年で13回目の開催となる「Ghana Paragliding Festival」ですが、昨年までの6年間、JPAのスーパーバイザーでもある岡田氏がタンデムパイロットとして招待され、参加を継続していました。
そして、岡田氏の功績が評価され、今年は日本人枠が1名増え、私前堀が招待を受け岡田氏と2人での参加となりました。
パイロットはその他に世界各地から集まり、総勢10名。

このイベントは、毎年イースターに開催されているので開催日は年によって大きく変わりますが、今年のイースターは4月1日ということで、3月27日~4月3日の8日間かけてガーナに行ってきました。

日本からガーナへ、今回はドバイ経由で飛行機に約20時間ほど乗りようやく首都アクラへ到着。そこから開催地Nkawkaw(カーカウ)までは車で3時間ちょっと。長い移動は順調でトラブルもなく予定通りに現地入りすることができました。

今年はテイクオフエリアが大きく拡張&整備され、広さは昨年までの3倍ほどになったようです。タンデム機を4機ほど横に余裕で並べることができる広さです。芝生が植えられ土の露出も少なく、斜度も十分、拡張された恩恵で風の入り方も良くなったようで、昨年までとはまるで別のテイクオフに改良されたようです。
ガーナ政府のこのイベントへの力の入れようがうかがえます。


整備されたテイクオフ

現地に到着すると、まずはテイクオフの完成セレモニーが開催されました。
大勢の方々が参列し、英語と現地語を交えて進行されていきます。
パイロット達も一人ずつ挨拶をし、参列です。


テイクオフ完成セレモニー

テイクオフでのセレモニーが終わると、次はこの村に受入てもらうための入村式が行われます。
なにやら歓迎の儀式が行われ、お神酒のような意味合いであろう、現地のいかにも手作りのお酒を皆で順番に飲んでいきます。(全然美味しくはない・・・。)

すべてのセレモニーが無事に終了し、翌日からはいよいよフライト開始です!
どうやら、すでに予約だけで200名以上のお客さんがいるようです。
そして、天気予報は3日間とも飛べそう!!


ガーナでタンデムフライト!

朝からテイクオフで開会式が行われ、フライト開始したいところですが、まだ雲底が低くテイクオフは真っ白。10時半頃になりようやく視界がひらけてフライト開始!
広いテイクオフからパイロット達が次々と飛び出していきます。
順番待ちをしているパッセンジャーの方々を受付係りの2人が準備のできたパイロットに振り分けていきます。
パッセンジャーはかなり多国籍。ガーナ現地の方、ガーナ在住の外国人、観光に来ている人、ボランティア活動に来ている人などさまざま。

どんなパッセンジャーでも確実に安全なテイクオフ&ランディングが出来るよう、準備や説明には気を遣います。私の未熟な英語での説明でどのように伝わっているか注意深く観察しながら、しっかりとコミュニケーションを取りながら。


初日はテイクオフの風が良く、終日テンポよくフライトすることが出来、日没まで飛び続け、岡田氏と私ともに10本ずつフライトすることが出来ました。

2日目の朝はキレイな雲海フライトでスタート!!
なんとも幻想的で広大な雲海でのフライトに癒されました。


この日も終日風に恵まれて、11本ずつのフライト。

しかし、3日目。テイクオフに到着すると本流の風は完全に後ろから。
時折フォローが止み、なんとなく前からの風に変わるタイミングでのテイクオフ。
テイクオフの先は断崖絶壁。前日までとは打って変わって緊張感漂うテイクオフです。何よりも精神的に疲れるシチュエーション。午後になりようやく少しまともな風に変わったものの、夕方までは続かず、最後のフライトは完全なフォロー風になってしまいタイムオーバー。
最終日の3日目は岡田氏が10本、私が9本のフライト。

2人合わせて3日間の合計で61本のタンデムフライトを飛ぶことが出来ました。
詳細は分かりませんが、当初の予約の200名はコンプリートし、追加の方々もある程度受け入れることが出来たのではないでしょうか。
タンデムパイロットとして招待していただき、しっかりとその責務を果たすことが出来たと思います。ガーナの観光の発展と地域の子供たちへの還元に少しでも力になれたのではないでしょうか。

イベント時には公式に手伝いをしている地元の子供たちが大勢いて、テイクオフでの準備やランディングでのパッキングやグライダー運びを手伝ってくれます。ガーナの特に子供達は非常に力強く生きています。
好奇心も旺盛で、素直で。
カメラを向けると一瞬で囲まれて大盛り上がり!本当に、ビックリするぐらい盛り上がります。


今回のイベントへの参加は、自分にとってもかなり貴重であり、有意義な経験が出来ました。
初めてのエリアで、多国籍のお客さんを相手に行う商業タンデムフライト。
緊張感と楽しさが両立し、疲れも忘れて必死に飛び続けた3日間でした。
このような機会がなければ一生訪れることがないであろうガーナという国に行き、さらにそこでパラグライダーで空を飛ぶという特別な経験。
機会を作ってくださった岡田さん、サポートしてくださったJPA(日本パラグライダー協会)、本当にありがとうございました。

レポート:前堀善斗


2018年安全対策会議開催


例年同様、この時期に『JPA安全対策会議』を開催させていただきました。

今年はフライト実技も行いたいと考え、参加者の皆様には朝早くからお集まりいただき、定刻通り8:30に開始となりました。
『着陸進入中の事故撲滅を目指して』というテーマを掲げ、アプローチに関する再確認と見直しと共に、新たなトレーニング方法と実践案を提案させていただきました。
昨年発生してしまった事故の要因として『アプローチミス』『ランディング時の失速』の比率が大きかった点に着目し、その対策案を考案させていただき、それに関して参加者の皆様に実践していただき、より具体的、実践的な対策案を作り上げることが目的です。

久しぶりのフライトを交えた安全対策会議で参加者のモチベーションは明らかに上がっています。やはり、机上だけではなく実践を通じて多くのインストラクターの方々のご意見を伺えることは非常に有効だと感じました。

翌日は、2017年の事故統計データの発表から始まり、講師の方をお招きして接客セミナーを開催しました。
『繋がる』というテーマを基に、普段はあまり深く考える機会の少ない「言葉』とその使い方に関して学び、パラグライダースクールの接客力の向上を目指します。ロールプレイングも交えてより実践的なシチュエーションで学んだことで、実践に生かしていただけるのではないでしょうか。

今年もお忙しい中、全国各地よりたくさんの方々にご参加いただき、有意義な2日間とすることができたと感じております。

ご協力いただいた方々、会場とさせていただいた富士山YMCAの皆様、ご足労いただきました保険会社の方々、講師をお引き受けいただいた大友様、ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。

2018年もJPAは会員スクールの皆様と共に、安全普及活動に努めてまいりますので、よろしくお願いいたします。

安全普及事業部部長 前堀善斗



レスキューレベル3による救助

 レスキューレベル3の搬送技術を使用しなければならない事例が発生しましたので、共有したいと思います。

 先日、レスキューレベル3による救助が行われました。ツリーランした方は、自分で木から降りたものの、その後斜面を滑落。救助班はSKEDストレッチャーに要救助者をパッキングし引き上げ搬送後、ヘリコプターランディングできるポイントを作り、救助ヘリに引き継ぐことに成功しました。

レスキュー隊には パラグライダー関係者に日本山岳レスキュー協会による資格認定者がいること、および日本パラグライダー協会の安全に対する取り組みに対して敬意を払っていただきました。

 今回の事故は、近隣に救助に行くことができる人はJPA関係者以外には居ませんでした。パラグライダーでフライトする以上、レスキューしなければならない事態は、いつ起こるかわからないものです。各スクールには定期的なトレーニングを受けたレスキューレベル所持者がいることは必須です。

 今回の救助は、ルートファンディング、レスキューをやり遂げる体力、レベル3相当の搬送技術がなければ成しえなかったものです。救助班のみなさま、お疲れ様でした。

*写真はJPAでのトレーニングの模様です。



(救助レポート)
11:20
1機のハンググライダーがレスキューパラシュートを投げツリーランディングとの情報。

12:00
関係者から救助要請。この時点では、落葉樹に引っかかっている。ケガなしとの情報。

12:15
上野(レスキューレベル3)をリーダーに救助班を設置。F氏(現場を上空から確認、現場付近ハイク経験あり)。K氏(レスキューレベル2、医師)。O氏(レスキュー経験豊富)。以上の4名とハング関係者4名で出発。

12:45
登山口到着。登山開始。現場までの道のりは、斜面の角度がきつく、高圧線のメンテナンスのため木を切った丸太がそのままのため歩行が大変きつい。

14:00 
本人が自己脱出を試みた模様。現場から100mほど下の斜面にうずくまっていた。肩、肋骨を負傷している模様。さらに、肋骨が肺に損傷を与えている可能性がありそう。この時点で、要救助者は自力での歩行が不可能。本部に無線で、SKED(プラスチック製のストレッチャー)、救急車の要請。ヘリ救助の可能性も伝えた。

15:00
要救助者が衰弱し始め、ヘリ救助要請。時間が限られているため、あらゆる可能性を考え、引き上げシステムを構築し、ヘリが近づけそうな場所まで搬送することに決定。引き上げは100mほど。

15:30
SKED到着。要救助者のパッキング。引き上げ開始。
引き上げ完了後、ヘリへの受け渡しがスムースに行くよう、周辺の雑木を伐採しスペースを確保した。

16:00 ヘリ到着。

16:30  要救助者ヘリ搬送。

18:15 レスキュー隊下山。

(救助のポイント)
・持ち運びが容易なSKED(プラスチック製のストレッチャー)がエリアに常備してあったこと
・レベル3相当の引き上げシステムを構築できたこと

(レスキューレベルの重要性を再確認)
レスキューレベル1 ツリーランディングからの自己脱出。
基本は救助を待つです。しかし日没までに救助隊が到着する見込みがない、凍死などのおそれがある場合は、自己脱出を決断しなければならないかもしれません。
山が深い場所でフライトする人は、必要な道具を持ち、自己脱出の技術を確実なものにする必要があるでしょう。

レスキューレベル2 木を登っての救助。
エリアにて誰かが持っている必要があります。持っている人が多ければ、エリアでの安全管理は高まります。

レスキューレベル3 搬送
今回初めて、レベル3の技術が必要となる事態に遭遇し、ヘリレスキュー隊到着までは、こちらで搬送する必要がありました。
レベル3の技術が必要な場面イコール切迫した状況です。
ケガ人がいる現場ではかなり緊迫しプレッシャーがかかります。後で考えると多くの改善点があります。二次災害を防ぐ意味でも、もっとトレーニングする必要があると感じました。

 頼みの綱であるレスキュー隊もすぐに来てくれるとは限りません。他に重大な事故が起こっている場合。消防隊が現場を確認しなければレスキュー隊が出動しないなどの事が考えられます。
日没までのタイムリミットがあり、レスキュー隊を待っている時間的余裕がない。事態がより悪化して行く場面では、自分たちが動かなければ最悪の事態を招くおそれがあります。今回も後手に回っていたら、日没になりヘリへの搬送がアウトだったかもしれません。限られた時間の中で、スムーズにレスキュー隊に引き継ぐためにはどのような行動が必要かを問い続けなければならないと感じました。

 救助班に参加いただいた皆様には、この場を借りて深く感謝を申し上げます。レスキュー隊、関係者の皆様にも感謝を申し上げます。ありがとうございました。

JPA安全普及事業部
上野 陸

*写真はJPAでのトレーニングの模様です。