ジャム勝・サマーカップ2018

大会レポート:藤野 光一

ジャム勝・サマーカップと言えば、夏の風物詩と言ってよいくらい定着した大会になっていますが、このネーミングでの開催は2007年から。それ以前はナショナルリーグの大会として秋(10月や11月)に開催されていたのです。
今年はこのネーミングになって12年目。干支がちょうど一まわりしたことになります。
「夏の勝山はいい・・・」と言うくだりから始まるのが2007年の大会レポート。しかし、年を追って見ていくと、ジャム勝・サマーカップは天候に翻弄される形容詞の多いこと多いこと!!パラグライダーの競技会と言えば天候に左右されるのは当然とはいえ、これほど天候に一喜一憂してきた歴史のある大会はないのでは?と個人的には思っています。ある時は絶望的な予報を覆しての快晴から逆転の成立。またある時は好天予報が外れて無情のキャンセル・・・。
そして、2018年もそんなジャム勝・サマーカップらしいほぼ”絶望的”な天気予報の週末で幕を開けることになったのです。

1日目

朝早くに秋雨前線が勝山市を通過し、それと共に雨も上がった様子。とは言え、今日の競技は難しいと言うのはおそらく選手も主催者も承知の上だったことでしょう。それでもN2リーグ30名、チャレンジリーグ16名の選手が受付に現れるのは「ジャムだから何か起きるかもしれない」と言う、およそ科学的な根拠など存在しないオカルトめいた期待感を選手に抱かせるだけの歴史があるからなのでしょう。


9月1日9時(出典:気象人)


雨の上がったエリアを望みながら開会式が行われます。ジャムスポーツの堀校長も「ここの大会はこれまでこのような天候から成立してきました」と強気です。選手もこの言葉にいくらか希望を持ったのではないでしょうか?


堀校長


とは言え、さすがに今日の競技は難しいため早々にキャンセルが決定されました。タスクコミッティーのみなさんは、明日の競技に向けて様々な条件を想定したタスクを検討していました。


タスクコミッティー

選手のみなさんは、観光に出かけたり午後から飛べる条件になってフリーフライトをしたりと、思い思いに初日を過ごされた様です。勝山名所の恐竜博物館やおろしそばなどを堪能された様です。
また、今回は福井国体のパラグライダーアキュラシー競技も併催されており、夜のパーティーではそれぞれの選手による懇親や、いつもながら大会を支えてくれる学生たちとの交流もあり、楽しい時間を過ごされたのではないか?と思います。


2日目

大会中はあらゆる気象情報を目にします。土曜日の昼過ぎまでは2日の予報は良くて曇り、大概の気象サイトでは午後から雨マークの付く”それ程期待できない”ものだったのですが、何故か夕方発表のものから晴れマークが並んでいました。そして、朝は確かに晴れていて、上空の空気は夏から秋のものに入れ替わっていて爽やか。それでいて対流性の雲もしっかりと存在しており、競技ができそうなムードを醸し出していたのです。まさに”ジャム勝マジック”です。


2日目の受付は9時から。少しのんびりしてはいますが、選手は期待感一杯の面持ちで受付を済ませてテイクオフへ移動して行きます。およそ可能性の低かった今回の大会でしたが、ジャム勝は何かが起きると感じさせた通りのことが起きてしまいました。


選手がテイクオフに揃ったのは10時30分頃。それに合わせて最初のブリーフィングを行い、今日の気象状況などを選手と共有します。堀校長によると、心配される雨はおそらく問題ないとのこと。対流も十分期待できるので、存分に飛べるタスクをタスクコミッティーと検討することになりました。


テイクオフスタッフの学生諸君

気象データも総じて良い方向を示しているので、たたき台になったタスクはN2リーグで最短距離30Kmを超えるもの。沖は名物のアンテナから、なかなか使いにくかったB27。後ろの山の中腹にあるTPを使ったダイナミックなもの。チャレンジリーグは最短距離で20Km。こちらも北側の砂防ダムを使ったチャレンジブルなものになりました。これを元にダミーの様子を見ながら調整して行くことになりました。


選手準備中


ブリーフィング


タスクコミッティー

日差しは十分ながらも、上りは期待したほどではありません。堀校長がテイクオフ目線あたりで頑張っていますが、なかなかそこから上昇してくれません。また、中層は南成分の風が結構入っているようで、センタリングは北側に流されて苦労しています。その後1000mを超えて上昇するコンディションになったものの、当初予想よりも渋めの条件を考慮してタスクを変更することに。そして、この判断はベストでした。


タスクボード


PCL Task2

チャレンジリーグは、テイクオフ後にB59料金所のSSS600m・enterでスタート。B59の400mを取った後でB45タンク、B58レストハウスの三角をもう1周し、この後は三角を少し大きくしてB37ダム横、B36砂防ダムの800m、B58のレストハウスを2周して最後にB37のダム横を取ってからA86のESS600m後に400mでゴール。距離は最短で19.5Km。
Window openは12時30分。Departure openは13時ジャストとなりました。


N2L Task2

N2リーグは、テイクオフ後にB59料金所のSSS600m・enterでスタート。B59の200mを取った後で後の山のB27ファンタジー中間のシリンダー1000m、B36砂防ダム500m、B37ダム横、B27を取ってから逆回りに転じ、B37ダム横、B36砂防ダム、B27、B37、B36、B27、A86のESS600mの後に200mでゴール。距離は最短で23.4Km。
Window openは12時50分。Departure openは13時30分。










チャレンジリーグの選手が出た頃から条件は好転し、最初に出た選手がスタートする頃には雲低の1400m付近で雲に入らないように飛んでいたそうです。後から出た選手はそこまで上がらない様で、高い位置からスタートしたグループと低い位置からスタートしたグループに分かれました。サーマルは比較的活発で、多少低くても沖から上げ直せるほどの好条件を上手く利用して最速でタスクを駆け抜けたのはNo.538飯田選手。58分34秒と1時間を切る速さでのダントツトップでのゴールでした。その後もゴール者は続き、8名の選手がゴールメイクとなりました。その後はコンディションが弱くなっていったこともあり、残念ながらゴールする選手は現れませんでした。


N2リーグはチャレンジから遅れること30分後にスタート。この時点ではまだまだ高度も取れて低い位置からもしっかりとした上昇があったためか、オープンクラスで参加のNo.5中村選手が低いながらも果敢に攻める飛びを見せます。これに続くのが今年絶好調のNo.26中島選手とNo.16関根選手。テンポ良く動いては上げ、動いては上げを繰り返すこのグループは集団から一つ抜きんでていました。この日のコンディションは前半は低いところからもしっかり上がって、しかも沖に出てもあまり沈まない状況。徐々に雲が覆ってきましたがその状況はしばらく続き、それを感じて動けた選手がゴールできたのではないか?と思っています。
レースの方は、抜きつ抜かれつを演じた中村選手と中島選手がダム横から帰ってきて最後のB27を取るために上げ直しているところを100m程度高い高度で戻ってきた関根選手がスルーしてファイナルグライドに入ったところで最高潮を迎えました。テイクオフで見ていた私(競技委員長)にも、関根選手の
「もらった!!」
と言う叫びが聞こえてきました。関根選手を追った中村選手、中島選手の追随も叶わず、トップゴールは関根選手。トップスピードのある中島選手が途中で中村選手をかわして2位、3位に中村選手となりました。
その後、女子トップとなったNo.51田前選手がタンク上の低いところから粘りの上げでファイナルグライドに入り見せ場を作りました。
N2リーグはゴール者6名(オープンを含めると9名)と言う結果となり、こちらも後半の条件失速に大きく影響されてしまいました。



チャレンジリーグ、N2リーグ双方とも、ゴールできなかった選手は必要以上に大事に行こうとしたか、或いは上げ過ぎたのが原因ではないか?と思います。今回のようなコンディションでは、見た目は曇っていて渋そうであっても、実は意外と沈まないとか、低いところから上がっていることがあります。
そんな場合、自分勝手な判断はせず、今起きている現象を素直に受け入れて、コンディションが良いうちに動いておくとか、沈まないコースを集団で動いておくとか、タスクの序盤戦により多く駒を進めることができるかが分かれ目になることが多いです。
キープハイが基本なのはその通りですが、だからと言っていつまでも動かないのではレースになりません。今回ゴールできなかった選手のみなさんは、そのような点も考えて練習されてはいかがでしょうか?

結果

ジャム勝・サマーカップは今年もしっかりと成立しました。コンディションは尻下がり気味になったものの、選手は最後まで諦めずにフライトしてくれました。
チャレンジリーグもN2リーグもしっかりとゴール者を出しての成立は、競技委員長として誇らしかったです。また、タスクコミッティーのベストな判断でタスクを調整できたことが、結果的にコンディションとタスクが距離的にも時間的にもマッチングしたのだと思います。選手の成長を感じられた出来事でもありました。

チャレンジリーグは圧倒的な速さで飯田選手が優勝を飾りました。女子は獅子吼に続いて谷藤選手が優勝となりました。チーム戦は「なまず」が優勝です。

N2リーグは、ゴールこそトップだった関根選手ですが、LOポイントの差で中島選手が優勝となりました。女子はこちらも獅子吼に続いて田前選手が優勝となりました。オープンクラスでは、その中島選手を翻弄した中村選手が優勝となりました。チーム戦は「KPS」の優勝です。

チャレンジリーグ総合

優勝 538飯田 剛成 Gradient-Aspen5

準優勝 508阿部 耕治 Nova-Sector

3位 529荒金 正之 Gin-Carrera+

4位 503松岡 茂 Nova-MENTOR5

5位 517谷藤 幸子 Advance-SIGMA10

6位 504斎藤 光秋 Niviuk-ARTIK3


チャレンジリーグ女子

優勝 517谷藤 幸子 Advance-SIGMA10

準優勝 512富重のぞみ Nova-PHANTOM

3位 540八子 文恵 Nova-MENTOR4


チャレンジリーグチーム戦

優勝 なまず(飯田、荒金)

準優勝 今井浜(谷藤、斎藤、岩野)

3位 SSAポンポコリン(松岡、富重、有吉)


N2リーグ総合

優勝 中島 義雅 Ozone-ENZO3

準優勝 関根 順 Ozone-ENZO3

3位 田前 英代 Niviuk-ICEPEAK7

4位 平松 久 Niviuk-PEAK4

5位 芦田 智昭 Nova-TRITON2

6位 河野 美樹 Niviuk-PEAK4


N2リーグ女子

優勝 田前 英代 Niviuk-ICEPEAK7

準優勝 河野 美樹 Niviuk-PEAK4

3位 小森さちよ Niviuk-ICEPEAK6


N2リーグ チーム戦

優勝 KPS(中島、清水、青柳)

準優勝 とちおとこ(関根順、谷藤)

3位 Team-C(小森、吉田)


N2リーグ オープン

優勝 中村 浩希 Niviuk-PEAK4



ジャム勝・サマーカップ2018は2日目に見事成立し、何事もなく終えることができました。選手のみなさんの頑張りに敬意を表しますとともに、いつも今大会を若さと明るさで支えてくれている福井県立大学の学生諸君に感謝申し上げます。また、エリアの堀校長にも大変お世話になりました。
来年もまた、ジャム勝らしいコンディションで素晴らしい競技ができるように今からお祈りしておきたいと思います。
でも、来年はちゃんと晴れ予報で、実際も晴れてほしいと思うのは、私だけじゃないと思いますので、みなさんも祈ってくださいね~!!