レポート 扇澤 郁
日本3大暴れ川の一本とされ四国三郎の異名を持つ吉野川は徳島県を西から東に流れ、ヨーロッパで見受けられるようなクロスカントリー飛行に最適なロケーションを我々に与えてくれている。離陸場の在る三頭山は、讃岐山脈の最高峰竜王山を分けて流れ込む北風、そして吉野川に沿って吹く山谷風が集まり、ソアリングスポーツに不可欠な上昇気流の宝庫と言える。JPAが開催時期を11月に設定しているのは、四国三郎の異名のごとく春先は風も暴れすさまじいサーマルが発生し、穏やかな大会が望めないからである。三頭山では毎年この時期ナショナルリーグの最終戦として勝者を決めるのにふさわしいレースが開催されてきたが、今年も3本のタスクが成立し、風を読み上昇気流を捉えてゴールを目指すソアリングスポーツの醍醐味を存分に味わえた大会となった。
11月22日大会初日(サーマルの中だるみを生き残れるか)
タスクコミッティーからは谷あいの逆転層が強くコンディションは渋めということで、スタンダードなアウト&リターンで29.4kmのエラップスタイムレースが発表された。11:50にゲートが開き真っ先に空中へ飛び出したのは、2014JPAナショナルリーグで表彰台を狙える位置にいる藤川選手、ワールドカップを転戦し久しぶりにJPAナショナルリーグで飛ぶ廣川選手、スーパーファイナル帰りの青木選手等ワールドカッパー達だ。この時、過去10年以上この三頭山で大会を主催しコンディションを肌で感じ取ることのできるJMB四国代表の高木選手、このエリアにめっぽう強い只野選手、ほぼリーグ優勝を手中にしている大沢選手、そしてこの大会3本点数をまとめてリーグ戦上位に食い込みたい私等、熟練組は空を眺めながらコンディションの好転を待っていた。そしてサーマルの中休が終わり12:20頃からサーマル活動が活発になり始めデパーチャーオープン時間に誰一人間に合うことなくタスク1がスタートした。
13:00デパーチャークローズ10分前に高度900mで先行したのは、もみじ温泉から3kmのスタートラインまで最初に谷渡りをした組の中で生き残った大沢選手、高木選手、隅選手。そして先行した組の動向を観察しながらデパーチャークローズ時間まで待ち、高度1300mとサーマル活動が活発化してきたところで私、竹尾選手、高杉選手、そして山周りでスタートラインにいた正木選手が先行組を追いかけるかたちでスタートを切った。スタート直後さらにサーマル活動は活発となり、北風をついて稜線まで戻った私は1600mのクラウドベースをゲットし、半ば勝利を確信しフルスピードでセカンドターンポイントへ向かう。しかし、三角点のターンポイントをリターンしたころから西の空に中層の雲が張り出してき来るのが見えたと思ったらすぐにエリア全体がシャドーとなりサーマルが乏しくなりかけてきた。速度を出し過ぎた私高度を保てなくスタックする。その中でもあせらず順調に駒を進めていった大沢選手が高杉選手を12分抑えて渋くなる前にさすがのゴールを決める。扇澤、竹尾選手、隅選手、高木選手、正木選手は高度を稼ぎ切れずにファイナルグライドにはいり万事休す。その時間帯はサーマル活動が乏しく、限られたサーマルポイントから外れていた選手はほぼ着陸を余儀なくされたが、山林の中にたまった熱気にしがみつき生き残った只野選手、廣川選手、藤川選手が、日照が戻りクラウドベースが1800mまで達するコンディションまで耐え切り至福のゴールを決めることになった。女子は星田選手が18kmの距離を飛び、2位の岡本選手、3位の水沼選手を1歩リードしてこの日を終えた。
11月23日(四国三郎ベストコンディション)
三頭山テイクオフには東か西か迷うようなどっちつかずの風が吹いてきた。これは北風ベース良好なサーマルコンディションの時に起きる現象だ。そのような難し環境でも、サポーターの手際のよい動きでテイクオフは順調に進み、良好な上昇気流は選手たちをもれなく1500mのクラウドベースまで運んでくれた。選手は最高のコンディションの中、もみじ温泉の3000mシリンダーにセットされたスタートラインを、ベストなポジションとタイミングでカットするために翻弄する。そしてレース開始時刻11:50スタートラインに一番近い1,500mのクラウドベースから隅選手、廣川絵美選手、青木選手等が抜群のスタートを切った。リーグ戦上位進出のためどうしても950点以上の得点がほしい藤川選手は、お互いに相手をベンチマークと思っている廣川選手と一緒にサーマルのサイクルを外してしまい、若干遅れてスタートを切る。私、大沢選手、水沼選手はファーストレグが追い風となる山周りコースで低いながらもスタートを切り混戦模様のレースがスタートした。
発表されたアウト&リターン47.2kmのタスクは四国三郎らしい良好なコンディションではいかに早く飛ぶかがキーとなる。速く飛ぶコツは、主稜線の形状、支尾根の角度と傾斜、入り組んだ谷の形状、太陽の位置と日射の差し込み具合、山谷風の変化などから風がぶつかって盛り上がっているコンバージェンスラインの発生位置を三次元空間の中で想像し、ラインを外さないで飛ぶことだ。もちろんスピードバーは高度を損失しないのならできるだけ踏んでいく必要がある。
昨日のミスを挽回するために是非他を引き離して1000点を取りたい私は、他の選手から見れば無謀と思われる先行逃げ切りの直線コースをとった。ベストポジションからスタートした隅選手たちは、私の動向を確認しながら余裕の高さで追従。昨日トップの大沢選手は確実なラインを取るために山周りコースを取る。そして、出遅れた藤川、廣川コンビは後ろから前の選手の様子を見ながら可視化されたコンバージェンスラインをフルスピードで追従する形でレースが進む。私は、ファイナルグライドに入りたい高さ1200mを目安に速度を調整した。それ以上にも以下にもならないようにファイナルグライドに入りたいからだ。自分に言い聞かせる言葉は「回さないぞ」の一言だ。しかし、レース序盤鳥小屋ターンポイントを取るときに、あまりにも直線的に狙いすぎたため北風の吹き降ろしにつかまり高度ロス。痛恨のミスにも思えたが、ターンポイントを取った後その吹き降ろしの谷風が拡散するところまでひるむことなくグライドし、三角点尾根突端高度400mから良好なサーマルを捉え1200mまで上昇しグライドに入る。その後は、順調にコンバージェンスラインにのり予定通り1200mでファイナルグライドに入るまで6回のセンターリングのみでファイナルターン。フルスピードでゴールへ向かいアベレージ37.41km/hでトップゴールを決める会心のレースとなる。2番手でゴールへグライドしたのは、速度を保って飛ぶ技術を持つ藤川・廣川コンビが前にいた選手全員を抜き去り実力のあるところを見せた。その後も選手は続々とゴールを決め、吉野川エリアの素晴らしさを感じ取りながらファイナルグライドを楽しんだ。
総合成績は、無難にゴールを決めた大沢選手が1位、2位にはこの日1000点を獲得した扇澤、3位、4位に廣川、藤川コンビが入りここまでが3日目を残し表彰台の真ん中を狙える位置に顔を並べた。
女子は好スタートを切った廣川絵美選手、水沼選手をはじめ参加選手全員がゴールし、2日目を終えた。総合順位は混戦となり、岡本選手、廣川選手が同率1位、水沼選手が僅差で3位の好位置をキープし最終日を迎えることになる。
11月24日(激渋コンディション)
昨日のタスクで、JPAのナショナルリーグタスク成立本数が8本以上となり、得点に計上できるタスク本数が4本となったため、最終日の結果を待たずして大沢選手の年間総合優勝が決定した。トップ3に食い込みたい、藤川選手は昨日上位でゴールするもその得点を計上することができず、やはりトップ3圏内にいる地元稲見選手とともに最終タスクで950点以上の得点を取りたいところだった。
渋めのコンディションの中設定されたタスクは、7000m、2500mのビッグシリンダー用い、コース取りに選択肢がありテクニカルで、選手の能力が問われる最終タスクとしてふさわしいものと思えた。1年間リーグ戦を追いかけていた選手たちにとってこの大会は慰労の為のツアーでもあり、選手は各々の思いで最終タスクに臨んでいったにちがいない。
真っ先にテイクオフしていった選手達は午前中のサーマルで上昇し大地の上のサーマルを狙いにいくしかし残念なことに思いもかけなかった高層雲が太陽を覆いはじめサーマル活動がほとんどなくなってしまう。その中でも何とか日差しが戻るまで、選手たちは頑張り続けるがかすかなサーマル活動を打ち消すように低い逆転層の下を湿った海風がエリアまで侵入してしまい、着陸を余儀なくされてしまう残念な結果となった。
2015四国ジャパンカップの優勝は、本年度5大会に出場し3大会優勝と安定した飛びを見せた大沢選手、準優勝はずば抜けて速い飛びをすることもあるが、ミスの多い扇澤、3位にパラグライダーを始めた時から世界一になる夢を追いかけ続けている廣川選手となった。女子優勝は、夫婦で世界を追いかけている廣川絵美選手とやはり夫婦で大会を追いかけている岡本選手、そして安定した飛びを見せる水沼選手が3位となり幕を閉じた。
四国ジャパンカップ2014 総合成績
四国ジャパンカップ2014 女子総合順位
JPAナショナルリーグ2014
総合優勝 大澤行英
準優勝 高杉慎吾
第3位 隅秀敏
JPAナショナルリーグ2014女子
優勝 水沼典子
準優勝 吉川朋子
第3位 岡本洋子
パラグライダーの大会は、参加選手の代表がその日のタスクを決め、安全確実にできるだけ速くゴールへ到達することを競います。風を読むことは奥が深く、その日トップでゴールをしても、その飛びがベストであったかどうかはわかりません。しかし、選手全員が同じ目的でフライトすることで、一人では見えない風、読めない風が少しずつわかるようになってきます。そして、風を読めるようになることで安全にパラグライダーを楽しめるのだと思っています。この場をお借りして、一緒に飛んでいただいた選手の方々にお礼を申し上げます。そして、この素晴らしいエリアを管理していただいている美馬スポーツ協会の皆様、大会を開催していただいた四国三郎ジャパンカップ実行委員会の皆様、スタッフとしてご協力いただいたトントントンビパラグライダースクール、バーズパラグライダースクール、浜名湖パラグライダースクール、JMB四国パラグライダースクール、TAKパラグライダースクール、エアーパークCOOの皆様に感謝します。そして、これからも皆様と一緒に末永くパラグライダーを楽しんでいければと思います。
ありがとうございました。