| 大会レポート
バードマンカップ獅子吼2025
競技委員長:松原 彪
毎年梅雨が明けた7月下旬から8月上旬に行われるバードマンカップ獅子吼パラグライダー大会は、ハンググライダーの大会としてスタートして以来今年で43回目を迎える伝統あるもので、多くのドラマが獅子吼高原の空で繰り広げられてきました。今年も8月2日・3日の2日間、どのようなドラマが見られるか楽しみでした。
DAY1
予想を覆した初日のコンディション
大会初日、前日の天気予報は午前中から昼にかけて雨とのことで、競技の実施は難しいと予想されていました。しかし、朝を迎えると、空には雲が多いものの雨は降っておらず、わずかに陽光が差し込む状況。雲底こそ低いものの、なんとか競技はできそうなコンディションに恵まれました。
ショップ前で開会式が行われ、昨年の覇者であるNo.1中村浩希選手による選手宣誓で、今年のバードマンカップ獅子吼2025が開幕しました。今年はチャレンジリーグ、ナショナルリーグともに、JPA日本グランプリ大会にもなっており、日本チャンピオンを決める大会でもあります。
厳しい条件下のタスク設定とチャンプチャレンジクラスの活躍
選手たちは全員テイクオフに上がり、競技のためのタスクを検討しました。雲底高度がテイクオフから100mから200m程度と非常に厳しいコンディションだったため、タスクはかなり短めの設定となりました。
最初にテイクオフしたのはチャレンジクラスの選手たちです。低い雲底でなかなか高度を稼げない中、選手たちは次々と駒を進め、多くの選手がゴールを果たしました。中でも、地元獅子吼をホームエリアとするNo.501中村裕昭選手とNo.531北口選手は、日ごろの練習の成果を遺憾なく発揮。素晴らしい速度でフライトし、見事なワンツーフィニッシュを飾りました。彼らの圧倒的なパフォーマンスは、まさに圧巻でした。
ナショナルリーグの苦闘と粘り強いフライト
続くナショナルリーグは、25キロ余りのタスクでスタートを切りました。しかし、雲底の低さが選手たちを苦しめます。多くの選手がスタートシリンダーを取った後、高度が下がりすぎてリカバリーできず、次々とランディングを余儀なくされました。
このような難しいコンディションの中、何人かの選手は生き残り、次々とターンポイントを回り始めました。しかし、やはり雲底の低さは厳しく、一人、また一人とランディングしてしまう選手が続出。多くの選手がゴールに届かず、悔しいランディングとなりました。
奇跡のフライト:中村浩希選手と伊沢選手の執念
そんな中で、高度を下げながらも弱いサーマルを丁寧に拾い、しぶとく高度を上げ返したのが中村選手と伊沢選手でした。彼らは厳しいコンディションの中を生き残り、次々とターンポイントをこなしていきます。一つのターンポイントを取っては高度を上げ返し、また次のターンポイントを目指す。この繰り返しに相当な時間がかかっていましたが、その集中力と粘り強さは目を見張るものがありました。
また、一度ランディングした後のリフライトながら、最後までフライトを続けた中田選手の頑張りも、多くの人々に感銘を与えました。
劇的なゴールシーンの連続
そして、大会のハイライトは、終盤のNo.1中村選手のフライトでした。最後の沖出しのターンポイントを取った後、彼は「梨笠山」に非常に低い高度で到達しました。このままではゴールのメインランディングまでは難しいのではないかと思われましたが、そこから見事に弱いサーマルを拾い上げ、高度を回復。そして、見事にトップゴールを決めました!すでにランディングしていた他の選手やスタッフが見守る中、その華麗なゴールには、思わず皆さんから拍手と歓声が上がりました。
残るはNo.2伊沢選手とNo.3中田選手。中田選手はリフライトのため、まだ多くのターンポイントを残しており、ゴールは難しい状況でした。しかし、伊沢選手は中村選手にわずかに遅れて沖出しのパイロンを通過した後、こちらも非常に低い高度で「梨笠山」に辿り着きました。ランディングで見守っていた多くの人は「まず無理だろう」と感じたほどの高度です。もうほとんどこのままランディングするのではないかというような高度でしたが、そこからギリギリの低空でメインランディングに向かいながら、ごくわずかなサーマルを見事に見つけ出し、高度を上げ返して堂々の2番手ゴールを決めました!この瞬間にも、見守っていた選手やスタッフから大きな歓声と拍手が湧き上がりました。
最後まで粘り強くフライトを続けた中田選手は、残念ながらゴールすることはできませんでしたが、その諦めない頑張りは、皆に大きな感動を与えてくれました。
パラグライダー競技の奥深さ
パラグライダーの競技は、技術力はもちろんのこと、その精神力、洞察力、観察力、判断力、体力、操縦技術、それらすべてを必要とする非常に高度なゲームです。これらを兼ね備えた者こそが、栄光を手にすることができるのです。早々にランディングし、フライトを見守っていた他の選手たちは、改めてパラグライダーという競技の奥深さと面白さを痛感したことでしょう。
この競技にはリフライトというルールがありますが、ゴールしていないのであれば、やはりリフライトすることによって、最後まで全力を尽くして戦うという気持ちを持つことが大切だと感じます。リフライトせず、下から見ているだけでは、それはもう自ら試合を放棄し、負けを認めることになります。私も長年競技をしてきましたが、「チャンスがある限りゴールを目指す」という気持ちは常に持ち続けてきたつもりです。選手の皆さんにも、今後もこの気持ちを持ち続けてほしいと強く願います。
TASK1リザルト
チャレンジリーグ(総合・女子・チーム戦)
ナショナルリーグ(総合・女子・スポーツ・スポーツ女子・チーム戦)
DAY2
2日目の朝は、ショップ前で前日見事な飛びでゴールしたNo.1中村選手、No.2伊澤選手に特別賞が贈られました。GAPシステムでは、たとえゴールしたとしても、選手全体のフライト距離が短い場合はクオリティーが低いとみなされ、トップの点数が低くなってしまいます。頑張ったお二人にせめてもの気持ちと言うことで、競技委員長からビールが贈られました。
また、テイクオフにおいては競技委員長代理の扇澤さんから、タブレットの画面ばかりを見るのではなく、実際の紙地図にタスクとシリンダーを書いてみて、タスクのイメージを事前につかんでおくことの重要さを教えていただきました。特にチャレンジリーグの選手には良きアドバイスになったのではないかと思います。また、競技委員のジャンさんからは、GAPのパラメータや点数を決める要素などについてレクチャーしていただき、選手みんなが頑張ってフライトしなければ得点が伸びない点を改めて感じました。
トップフライヤーたちの壮絶な戦い
大会2日目、朝はフォローの風が吹くコンディション。ゴンドラでの移動に先立ち、昨日の感動的なゴールを決めた2人の選手に特別賞が贈られました。
天候は不安定で、厚い雲がエリア全体を覆う中、好転を信じてレースはスタートしました。昼頃になるとフォローの風も落ち着き、ナショナルリーグは30kmの「綿が滝」ゴールを目指すレース、チャレンジリーグは昨日より少し長めの12kmのレースが設定されました。
熾烈なデッドヒート!チャレンジリーグ
まずはナショナルリーグからスタート。昨日よりも雲底が高くなり、コンディションは良好に見えました。
特筆すべきは、チャレンジリーグのデッドヒートです。地元の北口選手と岩野選手が抜きつ抜かれつの激しい戦いを繰り広げ、他の選手を大きく引き離しました。そして、その差はわずか1秒。世界選手権やワールドカップでしか見られないような壮絶なデッドヒートの末、北口選手が総合優勝とグランプリの称号を手にしました。
圧巻のフライト!ナショナルリーグ
ナショナルリーグも、昨日以上の好条件に期待が高まりました。テイクオフから約12km先の綿が滝ゴールを目指す、30kmあまりのタスクが組まれます。
雲底は900mから1000mまで上がり、多くの選手がハイスピードでタスクをこなしていきました。エリア周辺のターンポイントをクリアした選手たちが、雲底近くまで高度を上げてから次々とゴールを目指して飛び立つ光景は、まさに圧巻でした。
総合優勝は中村浩希選手が前年度に続いて優勝し、2連覇を果たし、併せてグランプリの称号を受けました。
そして、10名の選手が見事ゴールを果たしました。昨日、ランディング場で半ば悔しい思いもあったでしょう、感動のゴールを見ていた女子トップフライヤーの吉川選手、吉原選手も、堂々たるゴールを決めてくれました。
TASK2リザルト
チャレンジリーグ(総合・女子・チーム戦)
ナショナルリーグ(総合・女子・スポーツ・スポーツ女子・チーム戦)
大会表彰
チャレンジリーグ総合
優勝 No.531 北口 勉 GINGLIDERS CAMINO2
準優勝 No.503 岩野おさむ ADVANCE SIGMA DLS
第3位 No.521 Jang Seowon PHI MAESTRO2 LIGHT
第4位 No.501 中村 裕昭 PHI MAESTRO2 LIGHT
第5位 No.508 外山真利子 AIRDESIGN RISE4
第6位 No.502 小野裕一郎 NIVIUK IKUMA3P
チャレンジリーグ女子
優勝 No.508 外山真利子 AIRDESIGN RISE4
準優勝 No.512 玉置 千春 PHI BEAT2LIGHT
第3位 No.509 DAU(ダウ) NOVA ION7
チャレンジリーグ チーム戦
優勝 スーパーマリこブラザーズ(中村、栗山、小林祐、外山、北口)
準優勝 シシクチャレンジ(岩野、小野、箕浦)
第3位 ダウWIN進化論(玉置、湯田、DAU、Jang)
ナショナルリーグ総合
優勝 No.1 中村 浩希 OZONE ENZO3
準優勝 No.2 伊澤 光 NIVIUK ICEPEAK X-ONE
第3位 No.203 青木 和広 OZONE ENZO3
第4位 No.5 針生 清志 OZONE ZENO2
第5位 No.33 稲見 祐二 OZONE ENZO3
第6位 No.22 吉川 朋子 OZONE ENZO3
ナショナルリーグ女子
優勝 No.22 吉川 朋子 OZONE ENZO3
準優勝 No.8 吉原 紀子 OZONE ZENO2
第3位 No.38 横堀 紀子 GINGLIDERS EXPLORER2
ナショナルリーグ スポーツクラス
優勝 No.36 山田 大輔 OZONE PHOTON
準優勝 No.24 荒金 正之 NOVA CODEX
第3位 No.32 天野 年雄 OZONE PHOTON
ナショナルリーグスポーツクラス女子
優勝 No.38 横堀 紀子 GINGLIDERS EXPLORER2
準優勝 No.40 千葉 恵 NIVIUK ARTIK7P
第3位 No.52 山岸 聖子 NOVA CODEX
ナショナルリーグ チーム戦
優勝 スカイダンシング(窪田、中田、中島)
準優勝 とちおとめ(吉原、吉川、千葉)
第3位 ニチパラ(中村、里見、三澤、吉田正)
日本グランプリ
チャレンジリーグ
ナショナルリーグ
今大会は、悪天候の予報で成立が危ぶまれましたが、結果的に2日間とも無事にレースが成立するという素晴らしいものとなりました。
これも、選手の皆さん、ボランティアスタッフの皆さんのおかげです。心から感謝申し上げます。
また、無理を言って競技委員長代行を務めてくださった扇沢さんには、改めて感謝の気持ちでいっぱいです。扇沢さんがいなければ、このような素晴らしい大会にはなりませんでした。来年もどうぞよろしくお願いいたします。