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ジャムリゾート・サマーカップ2012 大会レポート
ほとんどのサーマル発生源は太陽光であろうから、後半とは言えいまだ8月の日射の熱線は激しいが「日よ陰ろ」なんて微塵にも思わない。「過度な炎天下につき中止」なんてありえない。高校野球も似ているかとは思うけれど、常時、頭と身体を使ってコントロールし続けるこのスポーツでは味方の攻撃中にベンチで一休憩なんて状況は訪れない。今更ながら真夏に行うパラグライダー競技は過酷なスポーツだと思わされる。 2007年からサマーカップの名を持つスキージャム勝山でのこの大会、暑さと引き換えに晴れの天候に恵まれ成立し続けている。もはや夏の風物詩といったところ。
関東圏の選手からは「地球の裏側」と表現された福井県勝山市のスキージャム勝山エリアも四国、九州からは守備範囲らしい。関西圏を中心にN2リーグ38名、チャレンジリーグ26名のエントリーがあった。チャレンジリーグにかかった日本グランプリ。その名に恥じないタスクへの期待感、年間ランキングへのポイント計上の有利さ、そして総合ウィナー、女子ウィナーに与えられる優勝カップ。いくつかの要因がチャレンジリーグ選手比率の高さを導き出している。
結果を言えば、チャレンジリーグ日本グランプリは見事成立。2日目こそ勝山特有のトリッキーなコンディションに多くの選手が苦しめられたものの“気持ちよく飛べた”大会と総括させて頂いて良いと思う。もちろん競技であり、成績はそれぞれながら、日焼け対策をおこたった二の腕のヒリヒリ感や、油断して短パンで過ごしたことで強力なハレを発生させるブヨにかまれた(さされた?)足のかゆみを引きずりながらも、選手達は“よく飛べた大会”の余韻に浸っているはずだ。
【一日目】
「選手の皆さん、待ってまーす。」と競技事業部facebookでコメントしていた若手スタッフが迎える受付。いつものようにTOに移動して開会式が始まる。今シーズンから行われている「パラワールド誌」提供のウィナーズカップが安比大会勝者のN2リーグ吉川選手、チャレンジリーグ虎井選手から一旦、堀 大会実行委員長に返還された。日本グランプリカップと合わせてチャレンジリーグの勝者は表彰式では2つのカップを抱えることになる。 天気予報の晴れはゆるぎない。雲底高度予測も高く、今年はTO後ろの山頂側ウェイポイント(WP)もタスクに加えられそうだ。但し、海風が絡むエリア独特の12時前後のタレと前日フライトのメンバからレポートのあった1時過ぎのオーバーキャスト(活発なサーマルによって形成される雲が日射を遮ってしまう現象)が気になるところ。
タスクコミッッティでは藤野選手にリーダーシップを発揮して頂いた。勝山定番のB30アンテナWPはほどほどに、いままで雲底の低さ故に使いにくかった山頂側を積極的に使うプランとなった。これはまさに地元の堀さんの意とも合致している。N2リーグで36km、チャレンジリーグは33kmを設定。それぞれのシリンダー半径設定は200mと400mなので3kmの距離差以上にゴール達成の差は大きくなっている。堀さんからはさらにオーバーキャスト対策として、早期のウインドゥオープンによって、コンディションが一旦タレるその前に多くの選手を高高度に滞空させるべきとのアドバイスを頂いた。結果としてこれらのプランやアドバイスは全く有効で、N2リーグで28名、チャレンジリーグで8名のゴール者が出ることになる。
全体のプログラムをN2リーグがチャレンジリーグ30分先行するプランで11:15にN2リーグをウインドゥオープン。デパーチャ時刻は11:45、本当にサーマルは働いているの?という雰囲気の中をゼッケン1の小幡選手が果敢にテイクオフ。それなりにステイする姿を見てナショナルリーグにも名を連ねる選手達は、迷わずに追従する。個々人が「これなら行ける」の判断を自らの責任で行い、状況を的確に展開させる。チャレンジリーグの選手が学ぶべき姿勢だ。結局この先頭集団がデパーチャ時刻までにスタート出来る高度を得た選手の中核となりレースをリードすることになる。11:45にはチャレンジリーグのウインドゥがオープン、12:15のデパーチャオープンに向けてゆっくりとテイクオフしてゆく。 途中にタレるコンディションにはならなかったが午前中は全体に渋めの条件。地形的にテイク前とLD付近で交互に上がるサーマルをとらえきれず降ってしまう選手のチラホラ。そして12:30を回るころからいわゆるバンバンの条件に変化していった。
この条件の中、一人、TOにてフライトタイミングを計る選手がいた。ゼッケン523の虎井遼太郎選手。後半バンバンのコンディションを待ち、最速タイムでタスクトップを狙う作戦だ。デパーチャクローズ13:15を越えないタイミングでスタートを切るために13:00ごろにTO、13:11スタートで13:54ゴール。43分の最速タイムをたたき出す。結果として2位となったゼッケン506中村由香選手はレースをリードした証としてのL/Oポイント(リードアウトポイント)をほぼMAXの139点を出したものスピード得点で差をつけられた。L/Oポイントは捨て、1000点は目指さずにタスクトップを狙う。ゼロサムゲームめいた戦略ではあるが、とりあえず虎井選手はこの日のゲームに勝った。先行する選手にL/Oポイントをボーナスとして与えるGAPシステムをもとに設定されているPWCスコアリングシステム(得点計算方式のことです。)ではあるが、欧州基準であるが故に、コンディションはソアラブル一定が前提条件で設定されている。日没時刻の遅い欧州とは違いシブイ条件からウインドゥオープンする日本ではL/Oポイントはもう少し高い方が良いのかもしれない。
チャレンジ TASK1 TOP6
N2リーグはオープンクラスの小幡選手がタスクトップとなった。N2クラスではゼッケン33の中村選手がトップ。トップ5名は11:45台でしっかりスタートしている。ゴール到達時刻では2位のゼッケン7稲見選手と小幡選手が同時ゴールしている。スタートが15秒遅い稲見選手がスピード得点は上回るもののL/Oポイントで小幡選手が差をつけた。レースをリードし続けたということだろう。
N2 TASK1(N2+OPEN) TOP6
18:00からは扇澤選手(さんとすべき?)がベーシックセミナーとして「異常飛行状態の理解」を講義。「翼は飛ぼうする」という観点でコラップスや失速、そしてそれらからの回復挙動を理解するという主旨。講師本人曰く、しっかり理解するにはJPA主催のセーフティトレーニングに是非参加をとのこと。 そしてこれも恒例のバーベキューでの選手交流会。フライト中のすれ違いやガグリングではメーカ名とグライダー名で認識していた選手が、どこどこから来た誰々さんに変わる。同一ガーグルで上げて違う方向に離脱した選手のその後や、あの渋かった時間帯をどうくぐり抜けたのか、まぁ言ってみれば戦友との会話が弾む。
【二日目】
明けて26日(日)。今日は昨日よりもっと飛びたい。選手サイドのシンプルな願い。タスクコミッティはそれに応えてN2リーグで44km、チャレンジリーグで36kmのタスクを提案。時間設定は悩みどころだが試合の流れを15分早めることとした。これも堀実行委員長の推奨。長いタスクには長いフライト時間が必要。昨日、15:00以降はコンディションが落ち着き過ぎて試合には不向きだった。
昨日はオーバーキャストと紙一重だった。雲はそれなりに形成されたが、やや北側にずれ、勝山エリアの日射を遮ることはなかった。しかし今日は違った。そして12時チョイ過ぎにその時が訪れてしまう。エリアの大部分の日射が遮られてしまう。20分ほどだったろうか。次の日射が訪れるまで生き残ったものだけがゲームを続けることが出来た。 高層で雲の吸い上げ成分でステイしたもの、少しずつ沈下するもののなんとか時間を稼いだもの。この日、一人だけゴールを決めたゼッケン81中島選手はこの時、アンテナB30パイロン付近で高高度を得ていたことで生き残れたとか。リザルトに30km以上の飛行距離を残した数名の選手はこの時間帯を生き残った強者達だ。テイクオフ奥の最終WP、B58の1.5km手前に設けられたエンドオブスピードセクション(ES)までたどり着くもののB58の200mシリンダーは届かなかった選手も2名いた。この日は14:00にはコンディションは終わってしまった。時間設定は二日間ともジャスト。やはり地元の知見は正しいのだ。
チャレンジリーグの日本グランプリ。昨日の時点ではまだ成立していない。トップ選手のフライト時間がタスクのノミナル時間(基準時間のようなものです。)45分を下回ったためスコアリングシステムはディクオリティを1.0以下の判断を出していた。日本グランプリの成立条件は「ディクオリティ1.0のタスクが1本」または「大会優勝者の得点が1000点以上」である。果たしてこの日の虎井選手、ゴールならずも24kmを飛んでトップ。585点を獲得し2日間合計で1442点。日本グランプリウィナーとなった。2位はゼッケン504の西原選手、18kmを飛んでおりL/Oポイントは虎井選手を上回っている。レースをリードしたのはこの選手であろう。
チャレンジ TASK2 TOP6
チャレンジ大会成績結果 TOP10
N2 TASK2(N2+OPEN) TOP6
N2 TASK2(N2 Pure) TOP6
N2リーグは二日間安定した成績を維持した中村選手が優勝。オープン参加の選手を含めたオープンクラスは小幡選手が当然のように優勝となった。
N2 大会成績結果(N2 Pure)TOP10
N2 大会成績結果(N2+OPEN) TOP10
「大会って不自由」という声を聞いた。今すぐテイクしたいと思っても長い列が出来ている。サーマルで上げるにも人と絡みながらで気楽じゃない。テイクオフディレクターは何やらうるさいし。おっしゃる通り、不自由です。でも多くの人と飛ぶからこそ見えてくることもある。単に成績が出るということではありません。他の人のフライトの観察、コンディションに対する情報収集、例えば同じガーグルで上げ負けたならその原因は?必要性によって人は学ぶ。競技フライトはその機会に満ちている。ここまで拙文に付き合って下さった上で少しでも競技フライトに興味を持ったあなた。すぐに参加に向けて準備すべきだ。安全性の確保ゆえにJPAの競技会参加には少しばかり手続きがいる。まずは知り合いのインストラクターにご相談を。 競技フライトはきっと多くのものをあなたに与えてくれるはずだ。中学の時、高校の時、あのスポーツをやっておけば、なんて振り返ることがパラでも起きないように今すぐ始めることが肝要です。そこに行かなければ絶対に出会えなかった仲間との出会いも含めて、大会参加はあなたのフライト人生をきっと豊かにする。是非、ご参加を。「待ってまーす。」 (レポート:鈴村恵司)