高嶺カップ2015

レポート 鈴村 恵司

長野県の最南端、愛知県との県境に近い平谷村で行われている高嶺カップ(たかねと呼称します。)。今年は2本のタスクが成立した。今年は、“ユダン”と“ガマン”の2つの言葉で象徴される大会となった。

【一日目】
前日の日中発表の予報は朝から雨、良くても午後曇り。夕方の更新で晴れに変わった予報もあったが、移動中で情報を得ず、重い気分で集まってきた選手も多かったろう。「受付はゆっくりするとして、あんな山奥のエリアで何して時間を潰そうか」という気分の選手達を出迎えたのは晴天の朝だった。ユダン禁物である。


だからと言って、タスク成立が保証されているわけではない。南西風を基本とする高嶺山エリアに対して、朝の天気予報は東風強め。いささか苦手な風向だ。フリーフライトなら問題ないが、競技となるとちょっとタスクが組みにくい。東風ではLD付近のリフトが発生しにくいことが多く、タスク距離が伸ばせる高嶺山山頂WPも使いにくい。ここは北西方向にあり、強い東風に捕まるとLDに届かなくなる可能性もあるからだ。


TOに上がり開会式、ジェネラルブリーフィング。雲の形は確かに東風。しかしTOに吹き付ける風は“いつもの高嶺”の西風。タスクを起案する競技委員長(私です。)、それを吟味するコミッティ、悩ましい気象条件の中、西風ベースを想定するものの万一の東風への急変にも構えるといったタスクを、N2、チャレンジにそれぞれ設定した。N2が実質19.1km、チャレンジは実質12.5kmの距離である。


■チャレンジリーグTASK1 シリンダ半径400m
D21→B04(start600m)→B04→B25→D22→B04→B25→D22→B04→B25→D22→A42→B18→B26→B09→A42(ESS500m)→A42



■N2リーグ TASK1 ※(  )内;シリンダー半径
D21→B04(ESS600m)→B04(400m)→B02(400m)→B28(600m)→B04(400m)→B02(400m)→B28(600m)→B04(400m)→B02(400m)→B28(600m)→B04(400m)→B02(400m)→B28(600m)→B12(1500m)→B18(400m)→B04(400m)→B09(400m)→A42(ESS500m)→A42(400m)



ウィンドダミーが順調に上昇し、10時45分にはウインドウオープン。11時30分デパーチャーオープンのゴールレースが開始された。
腕に自信を持つ選手からテイクオフ。その選手達を待っていたのは“激シブ”のコンディション。雲に日射が遮られた時間帯もあり、谷底深くまで沈んでしまいLDに戻らされる選手も出た。それでも12時過ぎ当たりまでガマン出来た選手には、の上限高度の上がったサーマルや、
雲底につけると沈まずに移動できる条件が与えられた。




N2の藤野選手が12:30にゴール。チャレンジの芦田選手はそれに先んじて12:22にゴールしている。ウインドオープンとほぼ同時にテイクオフした藤野選手はそれなりのガマンのフライト。一方、芦田選手はあまりガマンせずにスイスイとタスクをこなすことが出来たのではないか。(間違っていたらごめんなさい。)
N2リーグは9名がゴール。オープンクラスを含めると14名。大会としてはまずまずの結果。チャレンジリーグは二位の飯塚選手までの2名がゴール者で少なめの結果。3位の岩瀬選手、最終WPの20m手前でナビバリオが通過音を(なぜか)出してしまったそうで無念のノーゴール。
チャレンジリーグの選手がN2リーグ選手に比べれば経験値が低いのは仕方ないところ。今日のようなタスクで競技することで、待つべきところは待ち、移動はキープハイといった、渋い条件でのタスクのこなし方を学んでゆけばもっとゴール者は増えるはず。

試合の展開に戻る。時間の経過とともにテイクオフ側の雲が力強さを増した。リフライトの選手達が、「一本目はガマンのフライトだったけど、このままスイスイ、ゴールできるんじゃないか」とユダンし始めたころ、LD側でフライトしている選手から“雨がちょっと降ってます”の連絡が入る。気が付くとLD上空の雲は黒味を帯びており、この後、雨が止む様子はない。少し雨が強く成りかけたところでタスクペンディングを競技委員長が宣言。まだ雨のない高嶺側でフライトしていた選手はトップランしたり、やむなく雨の強まったLDへ向かった。グライダーの速度をできるだけ高くキープし、無駄なブレーク操作を行わない。LD直前のフレアは充分気を付け行い、滑り込むか走り抜ける。結果として、インシデント発生は抑えることが出来た。高度を下げたいのにスパイラル(の終了時点のフレア)も翼端折りも失速につながるから禁止。雨中飛行を強いられた選手はさぞやガマンのフライトであったろう。
雨雲レーダを1時過ぎに確認し、近辺に雨雲は無かった。雨雲の進入予報も4時過ぎとなっていた。ヒョウも降っていたとの選手のレポートもあった。休息な寒気の進入が雨をもたらせたのであって予測は不可能であったのかも知れないが、ダメと思っていたタスクが成立したことに、競技委員長は、ちょっとユダンしていたのではと言われてもしかたない。すいません。
【TASK1リザルトはこちら】


パーティでガマンした人はいなかったと思う。実行委員長のJMB中部とんびいず校長の片桐さんの手製の鳥の燻製を頬張りながら鍋を囲む楽しいパーティとなった。ガマンの量が多いほど会話は弾むものでしょう。
【パーティの様子はこちら】


【二日目】
小雨は夜半まで続いていたが、深夜3:00時には満点の星空に変わっていたそうな。ちなみに隣村の阿智村浪合地区は日本一星空観察に適した場所だそうです。
朝は雲のない真っ青な空。北風予報が気になるものの、今日は“いつもの高嶺”になることは間違いなかった。但し、“いつもの高嶺”には、それに慣れていない選手への落とし穴が含まれていた。
昨日は遠慮した高嶺山頂側のWPを使って、N2、チャレンジで長短はあるものの高嶺側3周、LD側2周の“三角パイロン“タスクを設定。の予定であったが、タスクコミッティから「良いコンディション予報なら長く飛べるタスクをやりたい。」との申し入れがあり、N2はLD側2周を1周+高嶺山頂側までのリターンに変更した。N2リーグは実質29.5kmのロングタスク、チャレンジリーグは、高嶺側3周、LD側2周のコンセプトを維持した18km強のタスクとなった。


■N2リーグ TASK2 ※(  )内;シリンダー半径
D21→B02(SS600m)→B02(400m)→B23(1000m)→B16(1200m)→B12(1500m)→B23(1000m)→B16(1200m)→B12(1500m)→B23(1000m)→B16(1200m)→B12(1500m)→B18(400m)→B04(400m)→B12(1500m)→B18(400m)→ B16(1200m)→A42(ESS500m)→ A42(400)



■チャレンジリーグ TASK2 シリンダー半径400m
D21→B04 (START600m)→B04→B03→B02→B04→B03→B02 →B04→B03→B02→B04→B20→B18→B26→B20→B18→B26→A42 (ESS600m)→A42



例によって渋い中、10時30分ウインドウオープン。ゴールレースのデパーチャオープン時刻は最終的に11時30分に設定された。
昨日タスクトップの藤野選手が、何のてらいもなく先陣を切ってテイクオフ。じわじわとそれに続く選手達といった様相。残念ながら耐え切れずにLD向かう選手もいる中、11時30分直前にはコンディションも上がりTO前にガーグルが出来、ゴールレースが展開された。
本日のタスクの要、LD方面から高嶺山頂側へのリターンを奇しくも最初に行ったのは、ゼッケン312 の和田選手であった。レーススタート前の渋い時間帯に高度を失いLDに向かったところLD側のリフトで高度を稼ぎ、高嶺側まで戻ったのだ。こうなれば今日のN2タスクの成立は間違いない。あとはゴール者がどれぐらい多くなるかは風がどこまで強くなってしまうかに依存する。
バレーウインド。高嶺山エリアは北西方向から南東方向、南南西方向から北北東方向の2つ谷が平谷村を中心に十字路のように交差している。尾根より高い位置では影響はないが、風の強まりとともに十字路をバレーウインドが駆け抜けるのが、風が強い時の“いつもの高嶺”だ。局所的に流速が上がった空域は当然、気圧が下がり、強いシンク帯となる。LD側で高度を稼いでも直線的に高嶺側に向かうとバレーウインドの上を長く通過し、高度を失うことになる。バレーウインドに捕まりながら高嶺リターンをあきらめLDに戻った選手も少なからずいた。ただこれは選手のユダンとは言えないだろう。かと言って単なる不運だったですませてしまうのはもったいない。先行する選手がどんなコースをとっているのかの観察できなかったのか、なぜその選手がそのコースを選んだかの分析は行えたか、知識や経験を高めてゆくチャンスでもある。


さて終盤、強まる西風に、主催者側のガマンが始まる。
チャレンジリーグの選手はもう高嶺側にはいない。N2のLDからのリターン組がTO前で低く、強い風にピッチアップしながらあえいでいる。レベル3とは言えないまでも気楽に見ていられるグライダー挙動ではない。こういった時、はたで見ているよりやってる選手の方が冷静で余裕がある。それが判っているから、タスクストップはかけずに見守るしかない。ガマン、ガマン。
2時を過ぎた辺りでサーマルの挙動も少し穏やかになり、風が強いながらもリターン組を安心して見ていられるようになった。

今日もN2トップは藤野選手。今日は1時間16分弱。扇澤選手をして、「藤野にしてやられた」と言わしめたフライトだったようです。チャレンジは飯塚選手が1時間を切り59分のタイムでトップとなった。1000点満点を得て、二日間総合で芦田選手を抜き大会優勝となった。タスク2のゴール者数はN2が13名、チャレンジは4名。
N2の7位、9~13位は女性フライヤーが占めた。女子トップの7位は地元の利も活きたか、田前(英)選手。9~12位の河野、片貝、麻生、小川の4選手はLDからのリターンの段階から集団でデッドヒート。連続してゴールメイクした。11位の河野選手は、一度LD側からの高嶺リターンを仕掛けてバレーに捕まり、ぎりぎりでLDに戻り、再び上げ直してリターンの末のゴールであった。最後のゴール者、星田(苗)選手は、この集団から約30分遅れでのゴールとなったがリードアウトポイントが高く、10位となっている。ゴールレースの場合、トップのフライト時間に対して長くなりすぎるとタイム得点はつかなくなる。しかし、レースをどれぐらいまで先行したかの得点であるリードアウト得点は、一旦、得られれば消えることがない。星田(苗)選手はおそらく、序盤はトップグループ付近でレースを進め、それが成績に活きた。それを上回るリードアウト得点の片貝選手。4位の中村選手と同一得点である。最後は遅れたものの、きっと途中までは4~5位あたりでレースをしていたと想像される。この人、前回の白馬八方からのN2参戦のようです。八方はキャンセルで結果は出ていないが、今後の活躍に期待といったところ。
【TASK2 リザルトはこちら】


二日間総合での大会としての勝者は、N2リーグは藤野選手、チャレンジリーグは二日目で逆転した飯塚選手となった。N2の中村選手、オープンを含めても5位の好成績。扇澤選手のグライダーはともかく、周りの選手の中がEN-D或いはフルコンペ仕様の中、EN-Cグライダーで検討。そして女性、麻生選手、片貝選手が5位、6位に入っている。





「来年、大会が開催できたら、また参加して下さい。」実行委員長の片桐さんの閉会式での挨拶の言葉。去年も同じようなコメントだった。事前準備、対外交渉、スタッフ集め、大会を開くのは大変だ。そして、今年もスタッフでサポートして下さったJMB中部とんびいずのメンバーにも感謝したい。
とはいうものの、来年も同時期に開催されることが決まったようです。選手の皆様、来年も参加のほど、よろしくお願い致します。